東京藝術大学大学院に映像研究科映画専攻が設置されたのは、2005年4月のことである。日本初の国立映画教育機関となったわけだが、その目的は規模は小さくても撮影所として機能させることであった。撮影という実践のなかで、自らが目指す映画を2年間のあいだに発見すること。そうした試行の繰り返しのなかで、20年の時が過ぎ、設置時のメンバーで残っているのが、とうとう私だけになってしまった。今回の上映は、第1期の記憶が残っている最後の年に、この20年間を振り返り、次なるスタートに向けて仕切り直すという目的で開催される。
映画専攻の監督以下7領域は、映画のメインスタッフを揃えるという目論見で、設立の中心を担った堀越謙三氏により、フランスのFEMISをモデルに設定された。したがって、作品は監督のみならず、プロデュースや脚本、撮影照明、美術、録音(サウンドデザイン)、編集の研究の成果を示すものである。修了生が現在の日本映画の現場で活躍しているのは嬉しい(しかも監督以外のスタッフも多い)。今回上映する72作品は、その彼らの活躍の基盤になっているわけで、ぜひスタッフの名前にも目を向けてほしい。監督がここで出会ったスタッフと撮り続けるというのは、設立当初の願いでもあったからです。上映時間の関係で漏れた作品も多いが(最近劇場公開されたものはあえて外した)、20期までのすべての期の作品がセレクトされているので、この20年間の変化も伝えられると思う。当初の監督領域の教授が北野武、黒沢清両氏だったことで、暴力映画、ホラー映画を志向する学生が多かったが、徐々に内容面で広がりが見え、形式的な実験を試みる者も多くなった。また近年は海外からの留学生が増えたことも、作品の多様性につながっている。
特別プログラムとして、2期の濱口竜介、瀬田なつき両監督の藝大2年間での全作品を上映します。『悪は存在しない』、『違国日記』と今年の日本映画で突出した作品を公開した両監督の18年前を見てほしい。特に、彼らの撮った全テイクを上映する入試の実技作品では、「差別」という与えられたテーマに半日の撮影でどう取り組んだか、興味深く感じてもらえるのではないか(瀬田さんが俳優の動きに合わせてキャメラをパンすると、隣で撮影していた濱口君がフレーム・インするというハプニングも起きる)。1期生の入試課題「戦時下の日常」全7本(このバラバラな上映時間に、各人の戦略が垣間見える)も、入学後のそのリメイクも含め、ここから映画専攻が始まったことの記録として見ていただきたい。
15日間連続上映という期間は、ちょっとした映画祭の規模です。これを無謀ととるか、英断ととるかは、人さまざまでしょうが、どの日も思いがけない出会いとなる作品が揃っていることは保証します。ちょっと遠出になるかもしれませんが、馬車道でお待ちしています。お気軽に、ご来場ください。